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特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus: iNPH)

はじめに

 詳しい説明は後にして、まず診療の実績を述べておきます。私自身は、これまでの15年間で1,500例以上の患者に検査(タップテスト)を行い、95%以上の患者で症状の改善を認めています。また、900例以上に対してシャント術(ほぼ全てVA shunt)を行い、約85%で症状が改善し、術後3年以上経過しても65%以上は自立しています(手術前に自立した生活が営めていた患者は40%)。

 百聞は一見に如かずと言います。典型的な症例の、治療前後の動画を提示します(動画の掲載については、患者と家族の同意を得ています)。

症例 1 82歳女性

術前動画

【術前】
※クリックで動画がご覧になれます。

 症例1は82歳(手術時)の女性です。13年前から骨粗鬆症と診断されて治療を受けていましたが、徐々に歩けなくなり、認知症も進行して寝たきりに近い状態になりました。脳室心房短絡術(VA Shunt: Ventriculo-atrial Shunt)により、歩けるようになったばかりではなく、認知機能も正常に戻りました(MMSEが16点から28点に改善:MMSE は認知症診断のためによく行われる検査で、満点は30点、23点以下だと認知症の疑いがあると判断される)。この患者は術後3年経過した時点でも、デイサービスに通ってはいますが、認知症もなく自立しています。

術後1年

【術後】
※クリックで動画がご覧になれます。

症例 2 80歳男性

術前動画

【術前】
※クリックで動画がご覧になれます。

 症例2は80歳(手術時)の男性です。4-5年前からもの忘れが始まり、歩行障害も伴なうようになり、来院の4ヶ月前には転倒して大腿骨を骨折して手術を受けました。リハビリを受けてもあまり改善せず、認知症も進行しましたが、VA Shuntにより、歩行も認知機能も改善しました(MMSEが16点から27点に改善、その後も改善し、2年後には29点)。

術後1年

【術後】
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症例 3 79歳男性

術前動画

【術前】
※クリックで動画がご覧になれます。

 症例3は79歳(手術時)の男性です。歩行障害、認知症、失禁の全ての症状があり、他院でタップテストを受けていますが、手術適応はないとされていました。再度タップテストを試み、直後に歩行が改善したので、VA Shuntを行い、歩行も認知機能も改善しました(MMSEが19点から29点に改善、術後3年以上経過しますが、MMSEは29点で認知症もなく、全く自立)。

術後1年

【術後】
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症例 4 68歳女性

術前動画

【術前】
※クリックで動画がご覧になれます。

 症例4は68歳(手術時)の女性です。数年前からもの忘れが始まり、歩行障害も伴なうようになり、ほとんど動けなくなりました。アルツハイマー型認知症以外の高度な認知症を伴った正常圧水頭症で、タップテストを行っても話しかけに対する反応が少し改善した程度でしたが、VA Shuntを行いました。認知症の原因が正常圧水頭症ではないので認知機能は改善しませんでしたが、全く言葉が出ない状態から親しい人と話せるようになり、運動機能は術後2年を経過した現在も改善した状態を維持しています。

術後1年

【術後】
※クリックで動画がご覧になれます。

 その他にも数人の患者から動画の公開を承諾戴いておりますが、正常圧水頭症だけが原因であれば、平均78歳で手術し、数年経過しても自立した状態が保てています。現在、平均寿命と健康寿命の差が大きな問題となっており、女性の場合では平均で12年間介護が必要な状態が続くとされています。正常圧水頭症の患者について、VA shunt は健康寿命を延長すると言えます。

 特発性正常圧水頭症は、「治療可能な認知症の原因疾患のひとつ」 として、新聞、テレビ、雑誌、インターネット(www.inph.jpなど)を通じて一般の人々にも広く知られるようになった疾患です。しかし、70歳以上の高齢者に多く、症状がゆっくり進むことが多いので、「年をとったせい」と思われて多くの患者が見逃されているのが実情です。

 「特発性」というのは、「原因が分からない」と いうことで、実際に、医学の進んだ現在でも何故このような病気が起こるのかは分かっていません。「特発性」は英語のidiopathic (イディオパティック)の訳です。「正常圧」というのは、脳脊髄液の圧が正常であると言うことで、英語ではnormal pressureと言います。子供の水頭症は昔から知られており、この場合は脳脊髄液圧(脳圧)が高くなって脳室が拡大し、激しい頭痛や嘔吐、意識障害を起こし、死亡することもあります。正常圧水頭症では、脳室が大きくなるにも関わらず脳脊髄液の圧は高くなりません。これは大変不思議なことです。「水頭症」というのは「頭の中に水(脳脊髄液)がたまる」ということで、英語では hydrocephalus(hydro = 水の、cephalus = 頭)と言います 。続けて書くと、idiopathic normal pressure hydrocephalus で、単語の頭文字を取って iNPH と呼ばれることもよくあります。インターネットで検索するときも、iNPHで検索するとたくさんヒットします。

 この疾患が知られるようになってからすでに50年以上の歳月が経ちます(1965年が最初)。正常圧水頭症(NPH(i がついていません))は、脳神経外科医や神経内科医の間では、クモ膜下出血や髄膜炎などの後に歩行障害(足が十分にあがらない、歩幅が狭い、ヨチヨチ歩き)、失禁、認知症の3つを起こす病態として良く知られています。これは原因がはっきりしている続発性(二次性)正常圧水頭症(secondary NPH, sNPH)で、見逃されることは殆どありません。

 最近話題になっているのはiNPHです。何の原因も見つからないのにこれら3つの症状を引き起こすNPHです。この病気は70歳以上の高齢者に見られることが多く、私がこれまで 15年間に手術した約900例については、70歳以上の患者が86%で、平均年齢は78歳です。85歳以上の患者についても、120例以上(約13%)に対してVA shuntを行っていますが、高齢にもかかわらず、合併症は非常に少なく、予後は良好です。
iNPHは、比較的簡単で体への負担が少ない手術によって、歩行障害や認知症などの症状が改善します。2004年に日本で「診断と治療のためのガイドライン」が公表され(2011年改訂)、iNPHを専門としない医師の間でも少しずつ認識が広がっていますが、まだ十分に知られているとは言えません。また、ガイドラインそのものも発展途上です。

症状

 症状は先にも述べた通り、歩行障害、尿失禁、認知症の3つを主症状とし、これを三主徴(iNPH trias)と呼んでいます。これら3つの症状が全て揃う場合もありますが、歩行障害のみ、または頻尿のみという場合もあります。認知症のみという症例は、文献的にも、また私の個人的な経験からも極めて少ないようです。

 症状からは「パーキンソン病」、「過活動性膀胱」、あるいは「アルツハイマー型認知症」と診断され、薬が長期間処方されていることが今でも珍しくないようです。iNPHはこれらの疾患と合併することもあり、服薬を続けてもなかなか症状が改善しない場合は、iNPHも疑ってみる必要があると考えます。

 脳梗塞(特にラクナ梗塞と呼ばれる小さな脳梗塞)を合併していることも多く、この場合は血管性認知症と診断されたり、脳梗塞による歩行障害と診断されることも多いようです。最近では整形外科領域において、「ロコモティブ・シンドローム」と間違われていることもあるようです。CTやMRIを撮っても、Alzheimer型認知症による「脳萎縮」あるいは「多発脳梗塞」と診断されて長期間薬が処方されていることもあります。
三主徴以外の症状もあります。シャント術で改善した症状を列挙しておきます。

  • 一日中ボンヤリしている
  • 意欲がなくなった
  • うつ状態(精神科専門医にうつ病と診断されていて、シャント術後に全く治癒した例もあります)
  • 易怒性(怒りやすい)
  • 頭痛
  • めまい
  • ふらつき
  • 足の浮腫(むくみ)

診断

 診断のためのフローチャート(診断の流れ図)が「特発性正常圧水頭症診療ガイドライン」に示されています(http://minds.jcqhc.or.jp/n/med/4/med0038/G0000352/0063)。簡単に言えば、次の5つに要約できます。

(1) 60歳以上で歩行障害、認知症、排尿障害のどれか一つの症状があり
(2) これらの症状が他の病気では説明がつかず
(3) 脳室の拡大があればiNPHを疑いなさい
(4) iNPHを疑ったら髄液排除テスト(タップテスト)を行い
(5) タップテストで症状が改善すればシャント術の適応がある


 診療ガイドラインではDESHと呼ばれる画像所見の重要性が強調されています(図1)。しかし、このような「典型的」な画像所見は私が治療して改善したiNPH患者全体の3分の1程度に過ぎません。図2に示すような、通常は脳萎縮とされてしまう患者でも、多くの場合タップテスト症状の改善が認められます。

【図1】

【図2】

【図3】

 図3は正常な人の画像ですが、脳脊髄液の異常な貯留は認められません。頭痛の精査や脳ドックでこのような正常画像を数多くみますが、このような例でiNPHの症状を示した患者を経験したことはありません。

 手術で改善するかどうかを判断するための診断方法はいくつか提案されていますが、腰椎穿刺(背中から針を刺す)で脳脊髄液を捨てて症状が改善するかを見るテスト(タップテスト、tap test)が一番簡単で、安全かつ確実性が高いと考えています。評価する症状としては、歩行(3m TUG: Time Up & Go、3mの距離を往復歩行する時間を測定する)、体のバランス、認知機能(MMSE, FAB, RBMT)などです。

 当センターでは、たとえMRIやCTなどの画像検査で典型的な所見がなくても(図2に示したように、ガイドラインの画像診断基準を満たさなくても)、iNPHの症状があり、他にハッキリと症状を説明できる病気がなく、MRIやCTで正常(図3)とは言えない脳脊髄液の貯留を認める患者にはタップテストを行っています。
脳脊髄液を30~50ml排除すると、iNPHであれば、多くの場合直後から症状の改善がみられます。一番良く改善が認められる症状は、歩行障害です。患者に話しかけながら髄液を排除していると、言葉が聞き取り易くなる(滑舌が良くなる)事もしばしば経験します。

 このように、髄液排除の効果は非常に早くから観察される事が殆どですが、2時間も経過すると症状が元に戻ってしまうこともあります。このために、当センターでは家族に同席してもらってタップテストを行い、症状の変化を一緒に観察してもらうことを原則としています。

 髄液排除中や直後の反応、約2時間後の症状評価、髄液排除後1〜2週間での症状変化などを総合して手術の適応がある状態かを判断しています。

 様々な研究がなされていますが、今のところ画像診断(CTやMRIなど)でiNPHを疑うことはできても、確実に診断することできません。

治療(手術)

 iNPHの治療法は、今のところ手術(髄液シャント術)以外にはありません。100%安全な手術はありませんが(感染や術後出血の問題)、薬やリハビリでは良くならず、時間の経過と共に症状は確実に悪くなるので、手術はやむを得ない選択です。

 1回の髄液排除(タップテスト)でかなり長く症状が改善していることもあり、この場合には認知症(軽度の場合も含む)がなければ経過を見ます。しかし、症状がすぐに元に戻ってしまう場合や、認知症を合併していて、その原因がiNPHと思われる場合には早期の治療(手術)が必要と考えています。

 手術は脳脊髄液を持続的に排除するために行いますが、これにはいくつかの方法があります。代表的なものとしては以下の3つの手術法があります(www.inph.jp/chiryou.html)。

脳室腹腔短絡術(ventriculo-peritoneal shunt, VP shunt)
腰椎クモ膜下腔腹腔短絡術(lumbo-peritoneal shunt, LP shunt)
脳室心房短絡術 (ventriculo-atrial shunt, VA shunt(「ブイエー シャント」と読みます))


 現在世界中で広く行われているのはVP shuntですが、最近の調査では日本で行われているiNPHに対するシャント術のおよそ7割がLP shuntです。VA shuntは、他の手術でうまくいかなかった時や、おなかの手術を受けていて腹膜からの髄液吸収が悪いと予測される場合以外はほとんど行われていません。多くの脳神経外科医がVA shunを好まない理由は、血管に管(カテーテル)を入れて心房(実際には心臓に入るのではなく、その手前の太い静脈(上大静脈))にカテーテル先端を置くので、感染を合併すると敗血症になり、致死的な状態になると誤解されているためと思われます。しかしiNPHに対するVA shuntについて感染(敗血症)の合併が特に多いと言うことを指示する証拠は全くありません。このようなことが正しいのであれば、不整脈の治療として高齢者に行われることの多い心臓ペースメーカーの埋め込みでも敗血症が多いはずですが、そのようなことが大きな問題になってペースメーカーの埋め込みがためらわれている、ということは聞きません。

 当センターでVA shuntを第一選択にしている理由は、次に挙げるような特性から、他の手術法に比べてVA shuntの方が優れていると考えられるからです。

  1. 心房(実際には心臓にまでカテーテルを入れることはなく、上大静脈にカテーテルの先端をおく)は血液が返ってくるところなので圧が低く、安定した脳脊髄液の流れが期待できる。
  2. シャントシステム全体の長さが短く(全体で約40cm、VP shunt では1m以上)、脳脊髄液の流れに対する抵抗が低いので効果が早く現れる(口に含んだ水を、短いストローと長いストローで吹き出すときの違いと同じ)。
  3. 便秘や肥満などで腹圧が上がり、脳脊髄液が流れにくくなることがない。VP shuntやLP shuntでは、便秘や肥満のために症状が悪化することがある。VA shuntでは、息を吸い込んだときには中心静脈内が必ず低くなり、このようなことは原理的に起きない。
  4. 以前に受けた腹部手術の影響を受けない。VP shuntやLP shuntでは、腹膜が癒着していて脳脊髄液の吸収が悪くなることがある。
  5. 高齢者では圧迫骨折などで腰椎が著しく変形していることがあるが、VA shuntでは脊椎の変形に影響されない(LP shuntでは手術自体が出来ないこともある)。
  6. お腹に傷を付けないので、手術後すぐに起きあがれる。事情によっては手術の当日に退院することも可能。
  7. 腹部に傷を付けないので、手術後すぐに食事が出来る。
  8. 失禁がある場合、お腹に傷がないので尿で傷口が汚れる可能性がない。
  9. 手術をする範囲が狭いので、感染のリスクが低くなる可能性がある。シャント術での感染率は1%から5%と言われているが、現在まで当センターではシャント感染は0.5%しか起こしていない。このための死亡はゼロ。
  10. 高齢者では、シャント術後に胃癌や大腸癌などが見つかることがあるが、これらの手術の妨げにならない。実際に900例以上の手術患者で、術後に癌が発見された患者は約30例あり(約3%)、決して少ない数ではありません。


 以上の理由で、当センターではVA shuntを第一選択としていますが、どの手術法を選択されるかは、最終的には患者とその家族ゆだねられます。

 VA shuntの治療成績に関しては、歩行障害の改善だけでなく、高次脳機能障害の改善についても良好な成績を得ています。手術例の平均年齢は78歳ですが、手術をしてから3年以上経過しても自立している症例が多いことも、iNPHに対してVA shuntが優れていることを示していると考えています。

おわりに

 iNPHは、ガイドラインの画像診断基準を当てはめた調査で約13,000人の患者がいると推定されましたが(2012年の全国調査)、当センターで治療した患者では、画像診断基準を満たす症例は25%しかないので、実際には遙かに多いと思われます。特に見落とされやすいのは、脳卒中(脳出血や脳梗塞)や高齢者に多い良性脳腫瘍に合併した場合で、症状のほとんど全てが脳卒中や脳腫瘍のせいにされている可能性があります。これらの疾患(特発性正常圧水頭症と脳卒中、良性脳腫瘍)が高齢者に多いということを考えると、高齢化が今後さらに進むわが国では、患者数が非常に多くなることが予測されます。

 平均寿命が伸びても健康寿命が延びなければ社会保障費は膨らむ一方です。年を取って転びやすくなった、物忘れが多くぼんやりとしている、尿の回数が多くなったり失禁するようになった、などの症状がみられたら特発性正常圧水頭症の可能性があります。{{/太}}専門医にご相談ください。                文責
流山中央病院
正常圧水頭症センター
髙木 清

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