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脳脊髄液減少症(外傷性低髄液圧症候群)

はじめに

 ここでも詳しい説明は後にして、まず診療の実績を述べておきます。私自身は、これまでの15年間で1200例以上の「脳脊髄液減少症」疑いの患者を診察し、約800例の患者を治療してきました(他院で治療された症例も含む)。症状が似ているので、軽度外傷性脳損傷(mTBI: mild Traumatic Brain Injury)、慢性外傷後頭痛(CPTH: Chronic Post-traumatic Headache)、子宮頸癌ワクチンの副反応(子宮頸癌関連神経免疫不全症候群、HANS: HPV Vaccine Associated Neuropathic Syndrome)、起立性調節障害(OD: Orthostatic Dysregulation)、線維筋痛症(FM: Fibromyalgia)、慢性疲労症候群((筋痛性脳脊髄炎)CFS: Chronic Fatigue Syndrome)などの疾患も含まれます。治療法としては、硬膜外酸素注入療法(硬膜外空気(酸素)・生理食塩水注入療法、EOI: Epidural Oxygen InjectionあるいはEASI: Epidural Air and Saline Injection , ESOI: Epidural Oxygen and Saline Injection)と硬膜外自己血注入療法(ブラッドパッチ、EBP: Epidural Blood Patching)を主に行ってきました。どちらの治療でも一時的な改善を含めれば95%以上に効果がありました。EBPのみでは、完治が約14%、治癒(完治を含む)は57%でしたが、EOI(EASI, ESOIも含む)のみを行った患者では、完治が16%、治癒率は60%でした。ここで完治というのは頭痛もなく全く元気な状態に戻ったこと、治癒とは、頭痛などはあっても社会復帰したという意味です。

 治療の侵襲が小さいこと、治癒率が高いこと、即効性がある事から、現在は硬膜外酸素(空気)注入療法(EOI or EAI)を第一選択としています。
 百聞は一見に如かずと言います。硬膜外酸素注入療法で治療した典型的な症例の、治療前後の動画を提示します(動画の掲載については、患者と家族の同意を得ています)。

症例 5 46歳男性 軽度外傷性脳損傷・脳脊髄液減少症

治療前動画

【治療前】
※クリックで動画がご覧になれます。

 症例5は46歳男性(治療時)で、何度か交通事故に遭っていますが6年前の事故から著しく悪化していました。症状は重いのに、MRIなどの画像診断では全く異常が認められません軽度外傷性脳損傷あるいは脳脊髄液減少症と診断される症例です。一度の硬膜外酸素注入療法で、運動機能だけでなく、高次脳機能障害の顕著に改善しました。治療後すでに4年以上経過しますが、今も仕事をしています。

硬膜外酸素注入療法後3日目

【治療後動画】
※クリックで動画がご覧になれます。

症例 6 10歳男児 脳脊髄液減少症・起立性調節障害

治療前動画

【治療前】
※クリックで動画がご覧になれます。

 症例6は10歳男児(治療時)で、外傷はハッキリしませんが、脳脊髄液減少症あるいは起立性調節障害と診断される症例です。運動機能だけでなく、仮名ひろいテストなどの高次脳機能の改善も顕著でした。

硬膜外酸素注入療法後3ヶ月

【治療後動画】
※クリックで動画がご覧になれます。

症例 7 63歳女性 脳脊髄液減少症・起立性調節障害

治療前動画

【治療前】
※クリックで動画がご覧になれます。

 症例7は63歳女性(治療時)で、約10年前の交通事故で、徐々に悪化。激しい痛みと歩行障害があり、脳脊髄液減少症、線維筋痛症、胸郭出口症候群などの診断で手術も受けています。外傷はハッキリしませんが、脳脊髄液減少症あるいは起立性調節障害と診断される症例です。

硬膜外酸素注入療法後2日

【治療後動画】
※クリックで動画がご覧になれます。

症例 8 15歳女性 子宮頚癌ワクチン接種の副反応

治療前動画

【治療前】
※クリックで動画がご覧になれます。

 症例8は15歳女性(治療時)で、子宮頚癌ワクチン接種の副反応と思われます。歩行障害だけでなく、激しい痛み、痙攣発作などを伴っていました。繰り返し治療が必要でしたが、治療後5年経過した現在でも社会人として生活できるまでに回復しています。

硬膜外酸素注入療法後9ヶ月

【治療後動画】
※クリックで動画がご覧になれます。

症例 9 17歳女性 子宮頚癌ワクチン接種の副反応

治療前動画

【治療前】
※クリックで動画がご覧になれます。

症例9は17歳女性(治療時)で、子宮頚癌ワクチン接種の副反応と思われます。歩行障害だけでなく、激しい痛み、著しい筋力低下などを伴っていました。繰り返し治療が必要でしたが、普通に大学に通えるまでに回復しています。

硬膜外酸素注入療法後1年

【治療後動画】
※クリックで動画がご覧になれます。

症例 10 18歳男 起立性調節障害(頻脈型)

 症例10は18歳男性(治療時)で、外傷をきっかけにして発症した起立性調節障害(頻脈型)と考えられます。小学校5年の時に自転車に乗っていて電柱に激突して以来、頭痛が続き、中学2年からはほとんど学校に行けなくなってしまいました。この頃に、小児科専門医から起立性調節障害と診断され、薬を処方されましたが改善しませんでした。
 症例 10 Head-up tilt test 赤線は治療前の脈拍の変化。青線は硬膜外酸素注入療法から2ヶ月後の脈拍の変化です。治療前は体を起こすと極端に脈拍が上がっていますが、治療後わずか2ヶ月でほぼ正常な反応に回復しています。予備校にも通えるようになり、来院の必要がなくなりました。

症例 11 17歳女性 起立性調節障害・起立性低血圧型

 症例11は17歳女性(治療時)で、起立性調節障害の起立性低血圧型と考えられます。中学2年(14歳)の時に部活で倒れて意識をなくし、その後同じような発作を繰り返すようになりました。起立性調節障害と診断されたようで(詳細不明)、血圧を上げる薬を処方されて一時的には改善しましたが、約2年後に再発。朝起きられず、学校に行けなくなりました。
 症例 11 Head-up tilt test 赤線は治療前の平均血圧の変化で、体を起こすと極端に血圧が下がり、起立性調節障害の起立性低血圧型と考えられます。青線は硬膜外酸素注入療法から4ヶ月後の平均血圧の変化で、正常なパターンに戻り、大学にも進学して現在は通院していません。
 その他にも多くの症例で、治療後に様々な症状(頭痛、体の痛み、握力低下、歩行障害、認知機能、視力障害、脈拍の異常など)が比較的短期間に改善し、記録されています。従って、私自身はこれらの症状が詐病であるとか、精神的なものであるとは考えていません。
 脳脊髄液減少症と呼ばれている疾患は、何度かテレビで話題になり、また最近では2016年4月から硬膜外自己血注入療法(ブラッドパッチ)が保険適用になったことが報道されたため、病名だけは医師だけでなく一般の人にも広く知られるようになったようです。

 日本では脳脊髄液減少症という病名が、交通事故(特に追突事故)後の「むち打ち症」との関連で使われることが多いようです。つまり、追突事故のように軽い頭頸部外傷の後、いつまでも頭痛やめまいが続き、ものがかすんで見える、記憶力や集中力が落ちたなどの多彩な症状が現れ、以前に「むち打ち症」と呼ばれていた疾患の多くは、脳脊髄液が漏れて減少してしまうことが原因で多彩な症状がでているというものです。脳脊髄液が本当に減少したかどうかは、外科的な処置で脳脊髄液を捨ててしまうような特殊な場合を除いて、実際には証明することが困難です。私自身は、「脳脊髄液減少症」と言う病名を用いるのは正しくないと考え、病気の原因と症状から「外傷性低髄液圧症候群」あるいは欧米で用いられている「慢性外傷後頭痛 (CPTH: Chronic Post-traumatic Headache)」や「軽度外傷性脳損傷(mTBI: mild Traumatic Brain Injury)」という病名を用いています。したがって、当センターで診療している「外傷性低髄液圧症候群」、「慢性外傷後頭痛 (CPTH)」あるいは「軽度外傷性脳損傷 (mTBI)」が「脳脊髄液減少症」と同じ疾患であるという確証はありません。しかし病名を何と呼ぶかに関わらず、この、軽度な外傷後に発症する複雑な病態には脳脊髄液の循環異常が関与していると考えています。また、どうして効果があるかは今のところ分かっていませんが、多くの症例で、EOIやEBPという簡単な処置で症状は著しい改善が認められる事は事実です。

 マスメディアのおかげで広く一般に知られるようになったのですが、残念なことに頭痛を診察している脳神経外科専門医の間でもこの病気はまだあまり広く認められていません。むしろこの疾患に否定的な医師もいまだに多いようです。「脳脊髄液減少症(外傷性低髄液圧症候群)」は交通事故による「むち打ち症」との関連も強いのですが、「むち打ち症」を扱うことの多い整形外科医の間では、この疾患の存在そのものに否定的な意見であったり、非常に希な疾患と考えられているようです。

 現在では「脳脊髄液減少症」あるいは「脳脊髄液漏出症」と呼ばれることの多い疾患ですが、当初は「外傷性低髄液圧症候群」と呼ばれていました。低髄液圧症が外傷によって起こるという意味で、症状が低髄液圧症に似ていたからです。

 低髄液圧症そのものは、腰椎穿刺の後に起こる起立性頭痛の原因として古くから知られていました。この場合は安静、あるいはEBPにより比較的短期間で治癒します。原因がはっきりしており、画像上も特徴的な所見を示すので診断は早期に下されます。多くの患者では脳脊髄液圧も実際に低い値を示します。しかし、腰椎穿刺の合併症として起こる低髄液圧症とよく似た症状を示すにもかかわらず、何の原因も見いだせない患者がいます。これらの患者に腰椎穿刺と脳槽シンチグラフィーを行うと、脳脊髄液圧が低く、髄液が頚椎や上部胸椎レベルで漏出している所見が見られることが多く、特発性低髄液圧症(SIH: Spontaneous Intracranial Hypotension)と名付けられています。文献的にも個人的な経験からも、SIHは多くの場合輸液と安静のみで治癒し、EBPが必要な症例の方が少ないようです。きわめて稀ですが、髄液の漏れている部分を塞ぐための手術を必要とする場合もあります(当センターではこのような手術は行っていません)。

 最近話題になっている「脳脊髄液減少症」は、これらとは全く異なります。交通事故後の、いわゆる「鞭打ち症」とか「頚椎捻挫」と診断された患者の中に、以前から知られていたSIHとよく似た症状を示す患者が少なからず存在し、EBPによって改善するということに最初に気づかれたのは、平塚共済病院脳神経外科部長(現国際医療福祉大学熱海病院脳神経外科)の篠永正道先生です。篠永先生は 2000年のことだと書かれておられます。症状を引き起こすきっかけは交通事故だけではなく、尻もちをつくなどの非常に軽い外傷のこともあり、始めの頃は「外傷性低髄液圧症候群」と呼ばれていたようです。しかし、脳脊髄液の圧を測定してもほとんど正常でしたので、1999年にアメリカの有名な病院(メイヨークリニック)のMokri(モクリー)先生が提唱していた「cerebrospinal fluid hypovolemia (脳脊髄液減少症)」という病名が使われるようになりました。「外傷性脳脊髄液減少症」は画像診断が可能であるという意見もありますが、誰もが納得するような低髄液圧症に特徴的な画像所見が認められることは殆どありません。この点は、今回硬膜外自己血注入療法(ブラッドパッチ)が保険適用となるための条件として髄液漏出の画像による証明を求めていることが障壁になる可能性があることを示唆しています。

 「はじめに」が長くなりすぎましたが、この疾患を取り巻く複雑な状況を考えればやむを得ません。

症状

 頭痛が主な症状ですが、それ以外に非常にたくさんの症状を引き起こします。頭痛などの症状は、立位や座位を保っている(体を起こしている)と悪化するという特徴があります(起立性頭痛)。頭痛も、低髄液圧症の時に見られる起立性頭痛に似ていますが、これと違うのは、低髄液圧症にみられる起立性頭痛のように、起き上がるとすぐに激しい頭痛に襲われると言うことはまれです。それでも、長く立っていたり座っているだけで悪化するので、起立性頭痛と呼ぶ以外に今のところ適当な表現はありません。

 頭痛以外の症状としては、以下に列挙するように非常に多彩なものがあります。
1) 頚部痛
2) 背部痛
3) 腰痛
4) 全身の痛み(線維筋痛症)
5) めまい
6) 耳鳴り
7) 聴覚過敏

8) 眼痛
9) 目のかすみ
10) 目の焦点が合わない
11) 視力低下
12) 複視
13) 光過敏

14) 顎が痛い、口が十分開かない(顎関節症)
15) 味覚障害
16) 嗅覚障害

17) 筋力低下(握力低下)
18) 手のしびれは痛み、脱力(胸郭出口症候群)
19) 歩行障害、フラツキ
20) 全身倦怠感(慢性疲労症候群)
21) 記銘力低下
22) 集中力低下
23) 不眠
24) 気分の落ち込み(鬱)

25) 下痢(水のような下痢)
26) 便秘
27) 失禁
28) リビドーの低下
29) 体温調節異常
30) 異常な発汗、ひどい寝汗
31) 血圧や脈拍の異常(起立性調節障害)
32) 風邪を引きやすい
33) 食物アレルギー
34) 花粉症
35) 頚部リンパ節の張れ


など

 これらをこの病気の症状とする理由は、発症前にはみられず、発症してから長い間続き、治療によって短期間で改善したからです。
一見症状の羅列のように見えますが、
1) – 4) は痛み、
5) – 16) は脳神経の症状、
17) – 19) は運動の症状、
20) – 24) はメンタル面の症状、
25) – 31) は自律神経の症状、
32) – 35)は免疫系の異常としてまとめることが出来ます。
まだ分からない事の多い病気で、ここに挙げた以外の症状もあるかもしれません。例えば不随意運動や肌のくすみなどが、治療後に消失することがあります。

診断

 むち打ち損傷に伴う「外傷性低髄液圧症候群」では、腰椎や下位胸椎のレベルで髄液が 漏れていることが非常に多とされています。症状が特発性低髄液圧症に似ているのに、脳脊髄液圧(脳圧)はほとんどの場合正常です。中には非常に高い脳脊髄液圧を示す患者もいます。 従って「脳脊髄液減少症」という病名が用いられるようになってきましたが、実は 脳脊髄液が減少しているという証拠を直接示すことは大変に難しいことです。

 「脳脊髄液減少症」を扱っている医師の間では、放射性物質を用いた脳槽シンチグラフィー(RIシステルノグラフィー)が診断確定に有用だと考えられています。しかしこれには多くの批判があります。個人的な経験に過ぎませんが、RIシステルノグラフィーも「脳脊髄液減少症」の診断にはあまり役に立たないようです。RIシステルノグラフィーが当てになるのであれば、治療前に「髄液漏れ」と判断された所見が、治療(ブラッドパッチ)を行ったあとの検査で消失して「治癒(症状の消失)」となるはずです。しかし、実際には治療によって「髄液漏れ」の所見がなくなったと言われても症状が改善してないことも珍しくありません。つまり、個人的な意見ですが、現時点では画像による確定診断は困難ではないかと考えています。この点は特発性正常圧水頭症と似ています。

 CT や MRI、RI脳槽シンチグラフィーなどの画像による診断が難しいのですが、機能的な検査では様々な共通した異常所見が認められることがあります。現時点では当センターで全ての検査が行える訳ではありませんが、これまでの経験から異常が出やすい検査を挙げておきます。これらの検査を治療前後で行い、自覚症状だけでなく、客観的な治療効果の判定を行う事が望ましいと考えています。
歩行速度・歩容:歩行速度が遅くなったり、歩く姿に変化がみられることがあります。麻痺のあり患者のように、片足だけ引きずって歩くこともあります。

握力:極端に低下していることがあり、治療後に改善する症例を多く経験します。胸郭出口症候群と診断されて手術を受けている患者もあるようです。

頸部可動域:首が回らないと言う訴えを客観的に評価します。

認知症のテスト:MMSE、FAB、RBMT(リバーミード行動記憶検査)、仮名ひろいテスト(他のテストで異常がなくて、このテストだけが極端に悪くなることが殆どです)、CAT・CAS(標準注意検査法・標準意欲評価法)

重心動揺検査:体のバランスを調べます。

HUT (Head up Tilt) テスト:寝ているときと起きたとき血圧と脈拍の変化を連続的に記録します。

聴力検査:自覚症状がなくても異常が見られることがあります。自覚的には聴覚過敏を訴えても、聴力が低下している場合もあります。

TriIRIS:輻湊調節機能の検査で、焦点が合わないなどの症状を評価します。

イリスコーダ:光を当てたときの瞳孔の反応を検査します。

脳波:突然の意識消失や高次脳機能障害を呈することがあるので脳の電気的な活動を検査します。

神経伝達速度:しびれや筋力低下などの症状に対して行います。

光トポグラフィー:うつ状態の診断に用います(自費)
現在当センターで治療対象としている患者の診断基準は下記の通りです。
診断基準(個人的に用いているもので、学会等で認められているものではありません)
1) 頭痛は単一な症状ではなく、めまいなどの多彩な症状(前記)を伴う。
2) 症状は外傷から1週間以内に発症している。
3) 症状は発症から3ヶ月以上続く。
4) 症状は立位を保持すると悪化し、横になると軽減する。
5) 症状は低気圧で悪化する。
6) 患者は頭痛などの症状で、仕事や家事などの日常生活を妨げられている。
7) 生活を妨げるような頭痛などの症状は、外傷以前にはなかった。
8) 四肢麻痺などの神経学的脱落所見はないか、あっても説明できる病変がない。
9) 患者はこれまでに様々な治療を受けているが効果がなかった。
10) MRIなどの神経放射線学的検査で、症状を説明できる病変がない。
11) 脳脊髄液圧は低くない。

治療

 治療は、以前は(2004年4月から2009年9月までの5年間)ブラッド・パッチを行っていましたが、現在では硬膜外酸素注入療法(EOI, ESOI, EASIなどと略しています)を第一選択としています。実際に髄液漏出の証拠があり、輸液と安静のみでは治癒しないと判断した場合を除いてブラッド・パッチを行うことは殆どありません。個人的な治療成績については始めに書いた通りです。

 硬膜外酸素注入をエアー・パッチと呼ぶ人もいますが、髄液が漏れてくる硬膜の穴を空気で塞いでいるわけではないので、このように呼ぶことは全くの誤りです。硬膜に穴が開いていて硬膜外腔に酸素や空気を入れれば、髄液が漏れてくる穴から酸素や空気が髄液の中に入り込み、気脳症という状態になってしまいますが、先に述べた診断基準を満たす患者にEOIを行って気脳症になることはありません。

 その他の治療として、気脳術(therapeutic PEG (pneumoencephalogrtaphy))、腰椎穿刺による髄液排除、正常水頭症に対して行うシャント術などがあります。症状の緩和には、点滴を短時間で行ったり、酸素カプセルの中に1時間から2時間入っているなどは多くの患者に効果があるようです。

「硬膜外酸素注入療法で治療可能な病態」について

当センターで用いている「診断基準」から外傷の既往を外し、頭痛以外の症状に着目すると

  • 線維筋痛症(FM: Fibromyalgia)
  • 慢性疲労症候群(CFS: Chronic Fatigue Syndrome)
  • 起立性調節障害(OD: Orthostatic Dysregulation)
  • 自律神経失調症(AD: Autonomic Dysfunction)
  • 子宮頚癌関連神経免疫不全症候群(HANS: Human papillomavirus vaccination Associated with Neuropathic Syndrome)と呼ばれる子宮頚癌ワクチンの副反応
 など、現在治療法の確立していない疾患の診断基準に記載してある症状と多くの部分で重なります。また、血液検査や画像診断でも症状を説明できるハッキリした異常が見つからない点も共通しています。既往歴に外傷の代わりに「子宮頚癌ワクチンの接種」を入れると、HANSそのものになってしまいます。

 HANSに関しては、HANSに特徴的とされる症状が、HPV ワクチンを接種していない集団と発症頻度が変わらないので、ワクチンとの因果関係はないと言う最新の研究成果もあり、その通りかもしれません。私自身は、HPVワクチンを接種されていない20歳以下の女性で、激しい頭痛や起立障害、歩行障害などを示す患者も25名ほど治療した経験がありますが(他院で治療を受けた患者は除外)、症状はかなりかけ離れているように感じています。HPVワクチンを接種した後に発症した患者は29人治療しましたが(全例硬膜外酸素注入療法)、他院でブラッドパッチや硬膜外電極の埋め込みを受けた2例以外は(29例中27例)、一時的なものも含め、症状の改善が認められました。5例はほぼ完治し、15例は日常生活が営めるまでに回復しています。
 硬膜外酸素注入療法は、穿刺による痛み(ブラッドパッチに比べて痛みは非常に軽い)と感染のリスク、可逆的な迷走神経反射を除けば、殆ど無害な治療方法です。そこで、他院でFM(5例)、CFS(1例)、OD(5例)と診断され、様々な治療を受けたにも関わらず日常生活に支障を来している患者に対し、治療を希望した場合に限ってこの治療を行いました。その結果、FMとCFSでは症状軽減(FMの1例は鎮痛剤の服用が不要になった)、ODの4例は治癒という成績でした。

 これらの疾患は潜在的に多くの患者が存在すると推定されますが、これまでのところ効果の高い治療法は知られていません。私は、硬膜外酸素注入療法によって、これらの疾患を高い頻度で治療できる可能性があると考えています。

おわりに

 この疾患は症状が多彩なだけでなく、原因も交通事故、テニス、 カイロプラクティクス、激しい咳込みなど様々です。原因がハッキリしない場合や症状の現れ方によっては線維筋痛症、慢性疲労症候群、起立性調節障害、自律神経失調症と診断してもおかしくない状態です。外傷の既往などのハッキリした誘因がなく、子宮頚癌ワクチンを接種の既往があれば、現在社会問題となっている子宮頸癌ワクチンの副反応(子宮頚癌関連神経免疫不全症候群(HANS))そのものです。私自身はこれらの疾患(線維筋痛症、慢性疲労症候群、起立性調節障害、自律神経失調症、HANS)の専門家ではありません。しかし、症状に類似点が多く、治療(硬膜外酸素注入療法)が低侵襲であることから(症例5の10歳の男子でも泣かずに治療を受けられました)、治療を希望されれば積極的に行っています。
CT, MRI など通常の検査ではほとんどの場合正常と判断されています。したがって画像による診断は大変に難しいのが現状です。しかし、機能的には多くの共通した異常が見られます。画像検査だけではなく、病状を正確に把握し、治療効果を判断するためにも、機能的な評価が非常に重要です。
硬膜外酸素注入療法は、「脳脊髄液減少症」の治療過程で偶然に発見した治療方法で、今のところ効果発現のメカニズムは良く分かっていません。しかし治療効果は歴然としています。全員に効果があるわけではありませんが、新しい治療法ですから保険適用はありませんので、自由診療とさせて戴いています。

               文責
流山中央病院
正常圧水頭症センター
髙木 清

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